厚生労働省データから見る副業普及率の現状と今後の働き方

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【はじめに】
コロナ禍以降、リモートワークの普及や働き方改革の推進などを背景に、「副業」への注目がますます高まっています。これまで副業といえば、一部のフリーランスや個人事業主が行うイメージが強かったかもしれませんが、近年ではサラリーマンや公務員までも視野に入れた多様な働き方が議論されるようになりました。厚生労働省が公開している各種データや、労働経済白書などの報告書を見ると、その普及率や実施状況が徐々に明らかになってきています。本記事では、厚労省の情報を踏まえながら、日本における副業の現状と今後の展望、さらに副業にまつわる課題や具体的な取り組み事例を詳しく掘り下げていきます。


1. 副業普及率の推移と背景

まず知っておきたいのは、日本における「副業」という概念が徐々に変化している点です。以前は、企業の就業規則で「副業禁止」が明文化されているケースが多く、実際には黙認される状況もありましたが、積極的にオープンにはしにくい空気感がありました。ところが近年、厚生労働省や経済産業省、総務省などの省庁が副業を推奨するガイドラインや白書を相次いで発表するようになり、企業側の意識も変わりつつあります。

たとえば、厚労省がまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、従業員が副業を行うメリットとして「新たなスキルの獲得」「労働力不足への対応」「イノベーション創出」が挙げられています。実際、少子高齢化や労働力の減少が進む中で、多様な働き方を認めることで社会全体の活力を上げようという意図が感じられます。

専門用語として押さえておきたいのが「ダブルワーク」と「パラレルキャリア」です。ダブルワークとは、本業を持ちながら、給与制のアルバイトなど別の仕事を行う形態を指すことが多く、生活費補填が目的の場合が少なくありません。一方でパラレルキャリアは、本業に加えて自分の専門性やキャリアを活かした別の職務を並行して進める形を示す言葉で、自己実現やスキルアップを目的とするケースが多いです。どちらも広義には副業に含まれますが、その背景や動機には微妙な差があります。

では、日本国内で実際に副業を行っている人の割合はどの程度なのでしょうか。厚生労働省が実施している就業構造基本調査や、労働経済白書などの資料によると、副業をしていると回答した人はここ数年でじわじわと増加傾向にあるとされています。具体的な数値は調査の定義によって多少異なりますが、「副業・兼業を行っている」と自認している人の割合は概ね5〜10%前後というデータもあります。ただし、実態としては家族経営の手伝いをしている人や、日雇い的なアルバイトをスポットで行っている人など、統計に十分反映されていないケースもあると推測されます。

背景には、2018年頃から政府が本格的に働き方改革を打ち出し、企業に対して副業解禁を促す動きが進んだことが挙げられます。特に上場企業やIT企業では、副業を容認する規則を整備したり、リモートワーク制度を拡充したりする動きが加速しています。また、厚生労働省が「モデル就業規則」を改訂し、副業・兼業を原則として認める形に変更したことも大きな影響を与えたと考えられます。こうした制度面の後押しが、副業普及率を押し上げる要因となっているのです。

とはいえ、まだまだ欧米のように当たり前の文化として定着しているとは言い難いのが実情です。次の章では、副業が社会に与えるメリットや、個人が得られる恩恵についてさらに深掘りしてみましょう。


2. 副業がもたらすメリットと労働市場への影響

副業が普及するメリットは、大きく分けて「個人のメリット」と「社会・企業のメリット」があります。個人にとっては、収入源が増えることで生活の安定が高まったり、興味のある分野でスキルアップを狙えたりするのが大きな利点です。また、本業だけでは得られない人脈や経験を積めることも、副業の大きな魅力です。たとえば、平日はメーカーの正社員として働きながら、週末にWebライティングやプログラミング案件を受注する人も増えています。

企業や社会全体にとっては、複数の職場で働く人材が増えることで労働力不足を補う一助となるほか、知見の交流によってイノベーションが起きやすくなる可能性があります。副業先で培ったノウハウや視点が本業に還元されることで、組織内の新たな価値創造につながるケースも期待されます。実際、大手IT企業やベンチャーでは、副業人材を積極的に活用しているところも少なくありません。

さらに、専門用語として「ジョブ型雇用」という概念があります。これは職務内容を明確に定義し、その業務に合った人を配置する欧米的な雇用モデルを指します。ジョブ型雇用が浸透するほど、副業や兼業と相性が良いとされており、一つの職務を時間制で働く日本型雇用(メンバーシップ型)とは異なる考え方です。厚生労働省の資料でも、今後は日本型雇用とジョブ型雇用のハイブリッド化が進む可能性が示唆されており、副業もその一環として制度化が進むかもしれません。

一方で、副業が増えることで「過重労働リスク」や「労働時間管理の問題」も指摘されています。特に、既に本業で長時間労働をしている社員がさらに副業を行うと、健康面や安全面でリスクが高まるおそれがあります。厚生労働省のガイドラインでは、企業が従業員の副業を認める際に「長時間労働につながらないよう管理する」「労働安全衛生上の責任や保険の扱いを明確にする」などの注意点を提示しています。こうした制度的・運用的な整備が進まなければ、副業のメリットが最大限に発揮されるのは難しいでしょう。

また、個人側も副業による収入が増えた場合、確定申告や住民税の納付などを適切に行う必要があります。税制面や社会保険の取り扱いを正しく理解していないと、後々トラブルに発展する可能性があります。こうした法的・税的な側面も踏まえて、企業と個人双方がメリットを享受できるようルール整備が求められているのが現状です。

次の章では、実際に厚生労働省が公表している副業に関する具体的データや、どんな業種・職種で副業が盛んになりつつあるのか、もう少し具体的な事例に踏み込んでみましょう。


3. 厚生労働省の資料から読み解く業種別・年代別の動向

厚生労働省が公表している資料の中には、業種別や年代別に副業の実施率や意識調査をまとめたデータがあります。たとえば労働経済白書や就業構造基本調査からは、以下のような傾向が読み取れることが多いです。

  • IT・情報通信業での副業率が高い: プログラミングやWebデザインなど、リモートワークで対応できる業務が多いため、副業しやすい環境が整っている。
  • サービス業・小売業では「ダブルワーク」的な副業が多め: 本業の休みの日や夜間にアルバイトをするなど、収入補填目的が強いケース。
  • 20〜30代の若年層で副業を始める人が増加: キャリアアップや自己実現を求め、パラレルキャリアを形成する動きが盛ん。
  • 40〜50代では、家計を支えるための副業や、定年後の準備として始める人も目立つ: 生活防衛資金の確保や老後資金の上積みが主な目的。

また、数字として興味深いのは、「副業を認めている企業」の割合が増えていることです。厚生労働省や経済産業省が行う企業アンケートによると、2015年頃までは副業禁止を明確に謳う企業が大半でしたが、2020年前後からは約3〜4割の企業が副業容認または検討中というデータも報告されています。これは、新たなビジネスチャンスを見出すための企業戦略でもあり、人材確保が難しい時代において柔軟な働き方を容認せざるを得ない事情もあるでしょう。

専門用語としては、「エンプロイアビリティ」という考え方も知っておきたいところです。エンプロイアビリティは「雇用され続ける力」と翻訳されることが多く、個人がどれだけ労働市場で価値を発揮できるかを指す概念です。副業で別の会社やプロジェクトに関わることで、自分のエンプロイアビリティを高め、キャリアの選択肢を増やす人が増えています。厚生労働省の資料でも、人生100年時代を見据えた学び直し(リスキリング)やキャリア形成の重要性が強調されており、副業はその手段の一つとして位置づけられています。

一方、業種によっては副業が許容されにくいケースも存在します。機密情報を扱う金融機関や公務員、一部の医療系などは、守秘義務やコンプライアンス上の理由から副業に厳しい規定を設けることも珍しくありません。公務員に関しては法律により原則禁止されており、非常勤講師や兼業許可が得られる特定の条件下でのみ副業が認められるなど、職種による大きな違いがある点にも留意が必要です。

このように、業種や年代別に見ると副業の形態や主目的は大きく異なります。厚生労働省の資料によっても「緩やかに副業が普及している」という全体像は把握できますが、現場レベルではまだ模索が続いている段階とも言えるでしょう。次に、副業に関して注意すべき法的ポイントや労務管理の問題について触れていきます。


4. 法的・労務管理の課題と厚労省ガイドラインのポイント

副業を実施する上で、意外と見落とされがちな点が「法的リスク」や「労務管理」の問題です。厚生労働省はガイドラインの中で、企業に対して以下のような事項に留意するよう促しています。

  • 就業規則の整備: 副業を認めるなら、その範囲や申告方法、業務内容の制限などを明文化する。
  • 長時間労働の防止: 副業先での労働時間が過度にならないよう、労働時間管理システムを構築する。
  • 競業避止義務: 同業他社での業務や、企業の利益を損なう副業を行わないようルールを定める。
  • 情報漏えいリスク: 副業先で得た機密情報を本業に持ち込む、またはその逆のケースを防止する。

専門用語としては、「兼業禁止規定」と「競業避止義務」がしばしば議論の焦点となります。兼業禁止規定は、企業が「二重雇用でのトラブルを避けるために副業を原則禁止する」といった規定を設けること。競業避止義務は、従業員が同業他社での勤務や取引先への情報提供などで会社の正当な利益を侵害しないように義務付けることです。厚労省のガイドラインでは、副業自体を一律に禁止するのではなく、合理的な理由がある場合にのみ副業を制限すべきとされています。

また、長時間労働の防止策としては、本業・副業合わせた「通算労働時間」の管理が課題となります。例えば、本業で週40時間働いている人が、副業でも週20時間働くと合計60時間になり、過労につながる恐れがあります。実際の管理は非常に難しく、企業が副業先の労働時間を把握しきれないケースも多いでしょう。厚労省のガイドラインでは、従業員の健康管理を最優先し、定期的に労働時間や健康状態を確認する仕組みづくりを推奨しています。

個人側の留意点としては、確定申告住民税などの税務処理が挙げられます。給与所得以外に年間20万円を超える副業収入がある場合は、基本的に確定申告が必要となります。住民税が本業の給与と合算されると、本業の会社に副業がばれてしまう可能性があるため、住民税の納付方法を「普通徴収」に変更するなどの手続きが行われることも多いです。ただし、そうした手段はグレーゾーンという見方もあり、ややグレーな扱いをされることがあります。

これらの法的・労務管理の課題をクリアしながら、副業を促進する仕組みをどう作るかが、社会全体のテーマとなっています。厚生労働省だけでなく、経済産業省や総務省などの連携によって、今後さらにルールや制度の整備が進む可能性がありますが、現時点では企業と個人、それぞれがリスクとメリットを秤にかけながら運用しているのが実情でしょう。


5. 今後の展望と具体的アクションプラン

厚生労働省のデータを踏まえると、日本における副業の普及は確実に進んでいるものの、まだ本格的に欧米並みの「複業社会」と呼べる段階には至っていないと考えられます。以下に、今後さらに副業が広がるための鍵となるポイントを挙げてみましょう。

  • 企業風土の変化: 副業をリスクと見るのではなく、成長機会や社外交流によるメリットと捉えられる風土づくり。管理職層の理解と、従業員が安心して副業を申告できる環境整備が欠かせない。
  • 労働時間管理システムの高度化: IT技術を活用し、複数の勤務先で働く労働時間を集約管理できるシステムの導入。これにより長時間労働や健康被害を防ぎやすくなる。
  • 法整備とガイドラインの具体化: 厚労省や関連省庁が更に詳細なルールやモデルケースを示し、企業が運用しやすい環境を整備。兼業禁止規定や競業避止義務の範囲を明確化する。
  • 個人のリテラシー向上: 副業を行う個人が労働法規や税務知識、健康管理を正しく理解し、自主的にリスクをコントロールする意識を持つ。

具体的なアクションプランとして、企業や個人が取り組めることを考えてみます。企業側であれば、就業規則をアップデートし、どのような副業なら認めるのか、またはどう申請・報告させるのかを明文化する必要があります。さらに、健康診断の機会を増やしたり、ストレスチェックを強化したりして長時間労働によるトラブルを未然に防ぐ努力も重要でしょう。

個人側では、副業を始める前に自社のルールを確認し、違反にならないかをチェックすることが大切です。副業先の業務内容が本業に与える影響や、競合関係に当たらないかの判断も必要です。税務面では、確定申告の方法や住民税の納付を把握し、後で余計な税金の追徴やトラブルにならないよう備えましょう。なお、本業に内緒で副業を行う「バレない副業」はリスクが大きいため、可能な限りオープンに行うことが望ましいです。

専門用語として「自己効力感」という心理学用語も挙げられますが、副業を通じて新しいスキルや収入を得ることで、自分の可能性を実感し、本業に対するモチベーションも高まるケースがあります。また、本業とは違う分野の仕事に触れることで視野が広がり、人生100年時代を豊かに過ごす選択肢が増えることも副業の醍醐味です。厚生労働省のデータが示唆するように、副業は単なる収入補填手段にとどまらず、日本の働き方全体を変えていく可能性を秘めていると言えそうです。

以上を踏まえれば、企業と個人がそれぞれ責任を持って健康管理やルール整備を行い、副業を前向きに活用する道が開けるでしょう。厚生労働省の資料も活かしながら、自分自身のキャリアと生活をより充実させるための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


【まとめ】

厚生労働省のデータから見ても、日本における副業普及率は徐々に上昇しつつあり、今後さらに働き方の多様化が進むことが予想されます。特に若年層やIT関連職種では、副業やパラレルキャリアを前向きに考える人が増えており、企業側でも副業解禁の動きが広がり始めています。一方で、労働時間管理や法的リスク、企業のコンプライアンス面などの課題も依然として残るため、厚生労働省をはじめとする関係省庁のガイドラインやモデル就業規則を参考にしながら、適切な運用が求められています。

「副業」という働き方は、収入アップだけでなく自己成長や新たな人脈形成にもつながる可能性を秘めた選択肢です。人生100年時代を迎える中で、誰もがキャリアを柔軟に描き直す必要性が高まっています。制度面の整備や企業風土の変革がさらに進めば、副業はより当たり前の働き方として定着することでしょう。

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